ファストコンテンツとノスタルジー消費──『三体』を例に

※『三体』のネタバレはありません

中国で『三体』のドラマが始まるらしい。去年の夏に完結編の第三部の邦訳版が出たのでそのタイミングで一部から一気読みしたが、外聞どおり超最高のエンタメSF小説で、読んでから数ヶ月は会う人会う人に勧めまくった記憶があるし、十月頃には人生で初めて読書会に参加したくらい、誰かと話したい欲求を駆り立てられていた。なんせ大量の登場人物が出てきてウン万年スケールの話なので「どのキャラが好き?」とか「どのシーンがアツかった?」とかそんな話で盛り上がれるのだ。ちなみに自分はキャラで言うと艾AAか羅輯。好きなシーンは第一部なら陽子の二次元展開(このシーンで決定的にスゲーと思った)で、第二部はルーブル、第三部はゴッホの星月夜がメタファーになるところ。やはりこうやって並べると絵力の強いシーンがいくつもある。

さておき、いまさらファストコンテンツの話題に飛びつくのも時代遅れな感じがするが、YouTubeで「十分でわかる三体Ⅲ」的な中国語の動画を見て(というか、中国版ドラマのティザーを探していたら見つけてしまった)、今までそういう類の動画を見たことがなかったので、なんというか感心してしまった。フリー素材やら完全に違法っぽい映画のカットやらが切り貼りされて、それらは読み上げられるテキストをイメージの側から補完させるような役割を担っている。宇宙船といったらスターウォーズの宇宙船のシーンが、言語の話題なら『メッセージ』の切り抜きが、といった具合でいろんなSF映画剽窃することで成り立っているわけだが、同じアカウントで大量の「ファスト読書」的動画をアップロードしているので、おそらく制作チーム内で、キーワードと紐付いた動画素材がデータベース化されているんじゃないかと思う(何の裏もとってない思い込みです)。一時期動画制作の仕事もやっていた身からするとすげ〜とか感心してしまうのだが、まあ感心することではない。

ところでそれよりも感心したのが、中国語に全く無学の筆者がその動画を二倍速で見ていると、言葉は理解できなくとも、映像素材のパッチワークだけでも作品のストーリーラインが脳内で呼び起こされたことだった。あらすじを知っていれば、エッセンスだけを抽出したファスト読書的動画は、それが異国語で作られていたとしても、ストーリーの追体験を可能にするのである。もちろん感心することではない(大事なことは2回言うタイプ)。ファストコンテンツとか倍速視聴とかの議論では、「分かった気になるという消費体験の是非」みたいなことが俎上に載せられがちな気がするが、「分かっていることを再認識させる消費体験」というのもあるよなー、と。自分はゲームのプレイ動画をよく見るのだが、実況動画とプレイ動画があれば後者を視聴する派であり、昔プレイしたゲームの動画をわざわざ見て「あったね〜」となるのが結構楽しかったりするし、やはり追体験を求めるなら実況者の視点はノイズとなるわけである。「60分で思い出すFF5」みたいな動画もそこそこあるし、ノスタルジー消費的なものとファストコンテンツってほぼ同じ構造になり得るんじゃないかと思った次第である。

それはそうと『三体』はガチ面白いので読むべし。

 

ちなみにこのブログは書式や投稿頻度や口ぶりなど諸々不安定にリキッドにジャジーにバイブスでやっています。いつかしっくり来るなにかを期待して……