【雑記】PAS TASTA「GRAND POP ODYSSEY」

12月8日Spotify O-Eastで開催されたPAS TASTAワンマンライブ「GRAND POP ODYSSEY(以下GPO」での物語パート(映像:釣部東京)の脚本を担当しました。

GPOでは、映像→ライブ→映像→ライブ→映像……と、よくある他のワンマンで長めのMCタイムとして配置されがちな数分を、シネマティックな感じのアニメーションを挿入する、という構成をとっており、その映像の物語を作ったという次第です。

ライブと物語が別物として展開するのに、GPO全体の体験を損ねてしまうんじゃないか、という不安はそこはかとなくありましたが、フロアから90分見た感じ全然杞憂で、パスタはじめ各チームが連携したさまが伺え、自分が想定したよりずっとシームレスな視聴体験だったと思う。いろいろと素晴らしかったんですが、ここでは脚本のあれこれについて(しかし、とはいえ簡潔にライブの感想を:まず、このメンバーがふつうにバンド組んでることのオモシロを上回るかっこよさで、すげ〜ほんとによかったです。ピーナッツくんがMCで言っていたように、ついこの間まで、パソコンポチポチ集団だったのに……。やはり、J-POPに関わらず、ポップな領域でやっていくということは、その音源を再現するアクターのようなものが必要とされがちで、多くの場合はフィジカルな主体がそこに動員されがちである。それでも、オタクの孤高なポチポチの努力の果ての凶悪な音を出力している時もやっぱよくて、フロアも盛り上がっていたので、どっちがいいというでもなく、現のパスタスタのメンバーが曲ごとにステージを回遊して楽器を持ったり離したりするのはその塩梅を見据えた上だと思うし、見ていて面白かった

最初に脚本の話をしたのは5月末くらい、underscoresの来日ライブの数日後だった。ライブの日はパスタも出演していたので終演後にやばかったすね〜的な話をしつつ、みんなバチ食らってるみたいな状況で、その記憶も鮮やかに残ってるあたりで電話があり、「ワンマンライブを進行するのに、なにか物語があるといいんじゃないかと……ほら、ホゲさん小説書いてるし……」という流れだったので、自分としては勝手に、やはりunderscoresの時のような、ストーリーを導入したライブ形式に影響を受けてのことなんだろうと思っている(これは公式見解ではない。が、Spoiled little bratのカバーは泣いた)

何気に覚えているのは、上のこのブログ記事、知り合いのアーティストからの反響がけっこうあり、わざわざDMで「よかったっす」と伝えてくれた方もいて、やはりunderscoresのインスピレーショナルな触媒としての存在感はデカいな〜とか思う。

ということで、脚本の相談を受けたその場で、100やるっす、100っす、100 gecsといった旨を回答した。これまでパスタスタには取材させてもらったり豚汁を振る舞ったりなど良好な関係を築いていたものの、一緒になにか作るというのは初めてだったので(peanut phenomenonの撮影とか手伝ってるが)、期待に応えるべく頑張ろうと思った。

その時ちょうど読んでいたのがカレン・テイ・ヤマシタ『熱帯雨林の彼方へ』という小説で、それは巡礼の話なのだが(アマゾン熱帯雨林のマタカンという地方を舞台とする。ある日突然地崩れし、地下から隆起した地層を調べると、それは磁気を持つプラスチックでできていた。その地に向かって宗教・観光・金儲けなどなど様々な理由で巡礼する者たちがいて、なんだか大変なことになるという奇想小説である。ヤマシタについては未訳の小説が多く、代表作とされる『オレンジ回帰線』すら未訳なので、それが読みたいので地道に布教を続けている次第、ストーリーの必須要件として示されていたパスタ・カーの存在を活かすのに、長大な距離を「巡礼」するのがよいだろう、さらに近代以降の人工物が地層化したという作品世界は、パソコンポチポチ集団からの脱却という意味でもよさそうである、というので符合して、企画書的なものを書いた。ついでにもう1案出したが、そちらはなんだかファンシーなアイディアで、パスタメンバーはわりとすんなりこちらのハードな感じのネタを選んだ覚えがある。「BULLDOZER」がその時点で完成していたので、あの泥臭い雰囲気もその選択に影響しているかもしれない。

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それから覚えている限り、ユッシ・パリッカ『メディア地質学』、アンドリュー・ブルーム『インターネットを探して』、 小宮山功一朗&小泉悠『サイバースペースの地政学』、結城正美『文学は地球を想像する エコクリティシズムの挑戦』、木澤佐登志『ダークウェブ・アンダーグラウンド 社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』などを読み、現代のインターネット状況と未来の地球環境を結び合わせるような物語を、ということで脚本のデモを書いた。それをもとにパスタとFigmaのボード上であれこれ話し合ったところ、荒唐無稽な案がやたらに出てきて(USBが降ってくる、USBが打ち上がる、Abletonのバージョンが3兆になる、GAFAがSになる……)、それはブレストという名の大喜利大会であったようにも思われるが、それを笑いながら(内心、どうやって整合させるんだよと思いながら)組み込みつつ、今の物語の大枠ができた。

そんな中でひとつフックとなったのが〈HTMLエネルギー〉という概念で、つまり、インターネットが消え去った未来に、かつてグローバルに接続し合っていた世界像への憧れから〈HTML〉が復権するという設定を用意し、その純な願いが現実の動力として機能する、というロマンも託しつつ、物語に導入した。

地下室に集まる怪しい集団が〈HTML〉を暗誦するというカルトチックな描写がまず浮かび、それを〈HTML教団〉として登場させていたのだが、映像的にも人物をあまり多く出すのは大変かもということもあり、結局ナシになった。脚本のデモ版のクライマックスには、以下のようなアホくさいくだりもあったのだが……

実際にライブ中、bo enやEOTI、six impalaといった海外勢が乱入してくる構想は(これは自分の仕事として関わった範囲では全くないのだが)、〈HTMLエネルギー〉的な願いの成就といえなくもなく、物語とライブが交差した瞬間であったように思う。

そんなこんなで、フロッピーとエスディという二人のキャラクターの冒険物語となり、パスタスタであれこれ話し合った上、釣部東京に映像を依頼することになった。ちなみにライブまでわりと余裕のない状況ではあったので、いやー厳しいずら……みたいな気持ちでいたが、「いっすね!」みたいな感じで受けてもらい、「え、逆に?!」みたいな感じになった。本当にありがとうございます。

文字がビジュアルに変わっていく様子を見るのは楽しかった。USBがめちゃくちゃかっこよくなったし、恐竜もクロームの404までは共有していたけどなんだかイカつくなっていてヤバかった。物語内PAS TASTAの造形も、線とか幾何学っぽい感じで〜というオーダーからああなった。柴田聡子さんがレイア姫になったりなどの小ネタも釣部さん。ほかにもいろいろあるかもしれない。

そしてパンフレットも自分が作った。いい内容になっていると思う。28pフルカラー。8000字ほどの小説、アルバム企画時のFigmaボードのアーカイブ、各メンバーへのインタビュー、ディスクガイドなどなど掲載して1000円で販売。お得です。転売するなよ。

かくしてGPOも無事終了ということで、自分は制作過程も含めて楽しませてもらい非常にラッキーだなと思う。帰ってからも、年甲斐もなく夜を徹してパブサしてしまうくらいには思い入れのあるというか、見守ってきたプロジェクトだったので、大変なトラブルも起きずに終えられて本当によかった。みんな本当にお疲れさまでした。

↑みん支

それでは、わたしも実はS社に誘われて宇宙に行かねばならんので、このへんで……