ハイパーボウル2024夏

暑いですね。暑いといえば、ハイパーボウル夏です!

ハイパーボウルは、わたくしnamahogeが聞いて興奮した国内外の新譜を紹介するスポーツ大会です(勝敗はありません)。

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いよわ『ねむるピンクノイズ』

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8月はほぼいよわばかり聞いていた。9月27日に発売される『ユリイカ』への寄稿を受け、Endless Iyowa Summerを過ごしていたから。

www.seidosha.co.jp

実は依頼メールが来た時、「じぶん、いよわについてなんか書けるんかな・・・」とわりと悩んでしまい、ライターのFlatさんに助けを求めて1時間ほどあれこれ喋ったのちに「書けますわ自分!」と青土社に返信したという経緯があった。その後もFlatさんのディスコ鯖でアルバム視聴会をしたりと、執筆にあたり非常に助けられた思いがある。結果的に自分としては満足のいく原稿ができ(依頼時より文量を非常に超過しつつ)、いよわというアーティストの面白さもずいぶん堪能できたので、受けてよかったと思う。あと、どうせ買って読むのだし書いた方がええなという気持ちもあった(ご恵投おねがいします、本当に。いつか蓮實重彦のエッセイで「未開封の冊子入り封筒が山程あるンゴ」みたいな文章を読んで、畜生がという思いになったことがある)

ところで、自分の(インターネットの)周囲ではボカロリスナーもいればそうでもない人もいて、TLでは「いよわのアルバム聞いたけど、なんだか掴めないなー」という声もあったので、自分なりのいよわ理解を軽くここで記す。

ヘンな音楽が好きなリスナーにとって、最新作よりも1st『ねむるピンクノイズ』が取っ掛かりになるのではないかと思う。なかでも3曲目「わたしは禁忌」は好例だ。1音1音にピッチベンドのかかったピアノ、高音域で無気力にふぁ〜〜と漂うシンセ、逆再生でずっと鳴ってるよくわかんない音など、まずトラックに関してヘンなところが非常に多い。間奏ではグラニュラー合成みたく乱打されるピアノが面白く、しかもこの時期のいよわの制作環境を考えれば、たぶんカットアップだけでそれを作っているところもちょっと異様だ。それからボーカルワーク。サビの唐突にせり上がる音高やら、「変われ変われ変われ変われ!」といきなり怖い人みたくなる演出もヘンだ。

ざっくりと、自分の原稿では「デジタル編集(DTM)によるヘンな処理が、いよわがテーマとする"死"の表現に繋がっている」みたいなことを書いている。つまり、1stアルバムにおいてはほとんどの曲で"死"を取り扱う作家が、一本のシーケンスの中でさまざまな切断を披露しているのだと、ざっくり言っておこう。そういった意味で、いよわは「タナトス作家」だ!などと騒いでFlatさんの鯖で乾いた笑いを買ったりもしたのだが……。いや、タナトス作家ってなんやねん。

あと、いよわ入門者は第6作「水死体にもどらないで」あたりから現在に向かってMVを順に見ていくといいと思う。第6作くらいから音楽も映像も安定してくる感じがするし、それでもやっぱ時間経過とともにクオリティが向上していくさまも見られるし、映像も込みでひとつの世界を表現する作家なので、MVを見るのがいい。

www.nicovideo.jp

ユリイカの自分の原稿は結果的に、作家のキャリアを初期から概観していく感じになっている。取り上げた曲など聞きながら読んでもらえたらうれしいな(なんせ、この文章の8000倍ほどの時間をかけて書いているのでね!!!!)。

あ、原稿のこぼれ話をここでしてしまうと、グリッチに関する書籍を読んでいる中で面白かったのが、Legacy Russell『Glitch Feminism: A Manifesto』(2020)。タイトルに「マニフェスト」とある通りグリッチフェミニズム宣言をしているわけだが、デジタルネイティブの著者が「グリッチは二元化を強いる社会に対する違和感への表明であり、アジテーションなのだ(ざっくり)」といったことを言っており、かなりアツい。ビジュアルアート文脈でのグリッチにまつわる議論は2000年前後から始まっているが、アイデンティティと結びつけて論ずるものはあまりない気がする。

www.kinokuniya.co.jp

あと国内ではucnvさんが2019年に『グリッチアート試論』というZINEを出していて、年譜などまとまっていそうだったけど、売り切れてるし多摩美にしか所蔵されてないようなので入手を断念。再販希望。

ucnv.stores.jp

是「Strawberry Candy」

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いよわ原稿執筆のために「グリッチ」にまつわるあれこれを読んだ結果、是さんのこの曲などがまた違った印象をもって聞くことができた。いわゆるケロケロボイス的な全パラメータがフルテンのピッチ処理がされてるようにも聞こえるが、それだけじゃなく、あえて機械っぽいビブラートを差し込んでみたり、ブレスとかのヒトっぽい質感が残留思念のごとくこびりついたまま切断してみたり、かつ、その切断面がグロテスクといってもいいくらいにブツブツとあらわれるのである。

そもそも(これもFlatさんに教えてもらったことだが)初音ミクの開発者の佐々木渉は、エレクトロニカグリッチ作家である竹村延和などに影響を受けているらしい。だから、ボイスバンクという分節化された声のデータベースから任意に記号を採取/連結することで歌を再現するボーカロイドというプロジェクトには、グリッチ的な思想が最初から企図されているのだといえよう。

performingarts.jpf.go.jp

www.ele-king.net

今やボーカロイドは自在に歌ってくれるヒトなのだし、よりヒトらしくなるヴァージョンアップも施されているわけだが、ここにきて原理的な異形を再現しようとする作家がいるのは面白い。それを単なる反動だといえるような作品だって世にはあるが、是さんの場合はなんだかちょっと手間のかかったアプローチをしているように思われる。だいたい是さんは声に注意が向いた作家で、いろんな実験をしているのだと思うが、やっぱその違和感と無関係にやたらポップなトラックで推し進めてしまうのがすごい。なお特に自分が好きなのは「コールセンター」。

www.youtube.com

galen tipotn, Holly Waxwing「keepsakeFM」

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前回も取り上げたgalen tiptonであるが、death's dynamic shroud(dds)とのコラボアルバムに続きHolly Waxwingとの共作をドロップ。先行リリースされた一曲目「keepsakeFM」はその時点で最高だったんだが、この曲のトンマナを延長してアルバムにパッケージした感じ。その結果、前作のいやにトゲトゲした攻撃性に比べればだいぶ落ち着いた雰囲気というか、氏の本領でもあるASMR的な謎音が緻密に配置されたミニチュア・サウンドスケープとなっている。ジャケットに描かれた気の抜けた動物らがかわいらしく踊っているさまが浮かんでくるよう。

ボーカルを前面に出す歌モノプロジェクトとしてはrecovery girl名義の作品群があるが、ここでは折衷的なアプローチというべきか、チョップして意味を無に帰した「なんかいい感じ」の歌がところどころで披露される。一聴してin the blue shirtsさんの作風のようにも感じられ、ベッドルーム・ダンス・ミュージックのバイブスがある。

一方で9月6日、ここ1年半ほどフロア・アンセムとしてひたすらに存在感を放つSkrillex「Rumble」のブートレグもリリース。こちらはddsとのアルバムとも共通するような、グロめのベースが唸ってやたらに踊れる感じのつくりになっている。

o0o0o0o0.bandcamp.com

che『Sayso Says』

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アトランタ出身の新進ラッパー・cheによるRageを下地にしたトラップ・アルバム。と思いきや、4曲目「GET NAKED」は15年前のボカロ・マスターピースこと「炉心融解」をネタにダーティに歪んだベースを重ねる異様な曲。合わせ方もめちゃくちゃだしヒドいバランスになっている感じがするが、それがむしろいい気もする。

cheといえばもともとハイパー寄りな出自で、過去にはSEBiiとも仲良かったりする。ところが2023年のEP『Crueger』ではチーフ・キーフへのリスペクトをあらわにしており、アングラでハードな路線に突き進んでいるPitchforkのライター・Mano Sundaresanはその転向を批判している

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今作『Sayso Says』はハード・アングラ路線とオタク路線の間を取ったというべきか、後半「Interlude」以降ではかなりエレクトロっぽいトラックでラップしている。きらびやかでありつつ汚れた電子音の位相は、既存のハイパー的な文脈のそれでもないし、とにかく汚すことが美とされるアングララップ文脈のそれからも浮いている感じがして、新鮮な思いがある。

Total Blue『Total Blue』

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モアイ像みたいなジャケがかわいいなくらいのことしか知らないが、作業用にリピートしていたので選出。アンビエントなんだけどいろんな空間から音が鳴っている感じがする。夏はけっこう書き仕事で(名前出ない系も含む)ずっとスクリーンに向かい続けていたので、時間も場所も関係なくなるような音楽が好ましかったのかもしれない。

詳しいことはわからないので、「OBSCURO」というレコ屋から文を拝借するに、

Benedek 等が結成したロサンゼルスのジャズ・トリオ Total Blue デビューアルバム。第四世界的なアンビエントのテクスチャーとダウンビートの残響で捉えどころのないヴァイブと「彼方への到達」を追い求めたブリージンなニューエイジフュージョンサウンド

Total Blue – Total Blueobscuro.jp

多和田葉子『太陽諸島』

bookclub.kodansha.co.jp

『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』と続く多和田葉子の長編三部作の最終章。ざっくりあらすじをいえば、北欧で出会ったふたりがある言語を求めてヨーロッパ中を移動して仲間を見つけ、なんやかんやで東方を目指すのだが意味不明にバルト海を航海することになってヨーロッパを出られない、みたいな話。物語はできるだけ長く続けばいいなと思っているクチなので、大作の終わりは悲しい。

あるふたりの関係がフォーカスされる時、社会的には夫婦ですかとかカップルですかとかみたいに名指されることがあるが、それを「隣を歩く者」と言って迂回するのが前作までなんだが、今作ではバカみたいなダジャレで一挙に関係性が変化してしまう、みたいなところが非常に印象的だった。言葉ひとつで根こそぎを変えてしまう魔法じみたレトリックが世界に存在するのは恐ろしいことでもあるし、わりとそんなもんよなという気持ちもある。

中根千枝『未開の顔・文明の顔』

www.book61.co.jp

『日本人の世界地図』という鼎談本で知って読んだが、社会人類学者の中根千枝がインドをフィールドワークするエッセイ。タイトルは結構ギョッとするが、1959年の著作なのでそういった大時代的なニュアンスは結構ある。

おもしろかったのは、インドの高学歴でエライ身分のひとが地方の長官になって「虎狩り」をするシーン(日々恐れられている虎を見事に狩ることで地元民からのプロップスが上がるのだという。ほんまかいな)や、インパール作戦で日本軍の行軍の道筋にあった集落で赤ん坊の名前に「テンノウ」と付けられているくだり(日本軍が駐留していた頃、テンノウとバンザイという言葉を覚えたらしい)など。

カレン・テイ・ヤマシタ『熱帯雨林の彼方へ』

allreviews.jp

日系アメリカ人でブラジルに長く滞在していた著者の小説。5月くらいに読んだ気がするが、強烈に印象に残りつつどこにもアウトプットしてないし、5月もたいてい夏なので選出。

佐渡ヶ島出身の少年の頭に磁力を持ったプラスチックの球体がまとわりつき、一方アマゾンの森の中では地崩れした箇所から大量のプラスチックの地盤が露出し、一方とある米企業がアマゾンのプラスチック帯に関心を示して一帯の商業化を目指し、一方ブラジル国民にとってそこは聖地化して巡礼の目的地になる、みたいな話(わけがわからないあらすじ)。スケールはデカいが徒歩(巡礼)、鳩(コミュニケーション)、電車(現代的な移動)などいくつかの移動手段のモチーフが重ねられていて、そこに商売やら信仰やらが絡んでくるので諸々の動機がはっきりしていて人々の行動が追いやすいというところはある。

そもそもこの作家は環境問題とか南北問題とかに関心があるらしく、『オレンジ回帰線』という作品では、メキシコから運ばれたオレンジの実に地図上の北回帰線がロープみたく引っかかったままLAに届き、グローバルサウスの時空間が北米の都市に割り込んでしまうパニックSFになっているそう。めちゃくちゃ読みたいが、未邦訳。

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ということで、眠たくなってきたので終わります。

次回もお楽しみに!