ハイパーボウル2024上半期

長らくお待たせいたしました。ハイパーボウル2024上半期の開催です!

ハイパーボウルは、わたくしnamahogeが聞いて興奮した国内外の新譜を紹介するスポーツ大会です(勝敗はありません)。

=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ

BoofPaxkMooky, Dylvinci In a Tree

open.spotify.com

In a Tree

In a Tree

  • BoofPaxkMooky & Dylvinci
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1528

music.apple.com

plugg/pluggnbというトラップの派生形のラップミュージックがあり(アボかどさんの記事に詳しい)、個人的には去年DJのEnjiにいろいろ教わってからよく聞いている。ことpluggnbは、Autumn!やSummrsといったラッパーが2022年前後に一時代を築いてから消化されるタームに入ったものの、一方で、ひとつの音楽の円熟という風情がこのアルバム『In a Tree』にはある。

BoofPaxkMookyはノースカロライナに生まれフッドよりネットで知名度を上げたラッパー。その過程でシーンの重要なプロデューサー・Cashcacheよりアトランタスタイルの薫陶を受けたらしいインタビュー

なんといっても完成度の高い今作のビートはすべてDylvinciによる。要所要所で使われるピコピコシンセが印象的で、サンクラをチェックすると、たった29人に厳選されたフォロー一覧のなかにゲーム音楽作家のああああ氏がいたりして結構ビビる。10年代のクラウドラップからコデインを引き継いでしまった2024年のpluggシーンであるが、『In a Tree』でも相変わらずふらふらとヨレつつ、しかし8bit的に明瞭な音像が意識を覚ましてくれる。

JuggrixhSentana, Rxl Sway Naughty

open.spotify.com

Sway Naughty - EP

Sway Naughty - EP

  • JuggrixhSentana & Rxl
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1530

music.apple.com

がっつりpluggnbビートであり、JuggrixhSentanaの力の抜けたラップがいい。メロウ。セクシー。抗えなさがある。

横須賀を拠点に活動するyokosquad(ヨコスクワッ!)はSaggypants ShimbaやCFN MALIK、Jellyyabashiなど各所で活躍中のヤンガンが集まっているが、雑誌Ollieに載っていたインタビューでは口を揃えて「テキトーにやってるっす」的なバイブスだったのが印象的(手元にないのでうろ覚え。掲載号は[Ollie VOL.257 2023 may])

ちなみに筆者は去年まで横須賀と横浜の市境のあたりに住んでいて、ドブ板通りもよく遊びに行っていたので町の雰囲気はよくわかる。コロナ前の記憶だけど、空母が入港した金曜の夜なんかは軍服着た米兵(MP)が立っていたり、飲み屋に行けば数十年前に黒人と白人の間で町ぐるみの喧嘩騒ぎがあったのだとか聞いたり、現在は観光地化が進んでいるとはいえ、あの町でヤンチャした若者はタフに育つだろうなと思う。そんな記憶込みで彼らの03-Performanceの映像やVlogを見たりしている。

www.youtube.com

tmjclub『#tmjclub』

open.spotify.com

#tmjclub vol.1

#tmjclub vol.1

  • tmjclub
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1528

music.apple.com

前掲のクルーと比べると一気にナード感があふれるが、超ざっくりpluggと括ってしまうとサグもギークも同居しちゃうのが面白い。USでもRXK NephewみたいなもっぱらサグとFulcrumみたいなもっぱらオタクがいて、その中間にとにかく超然とした感じで立ってるxaviersobasedがいる、みたいな雑な図式を立ち上げたくなってしまうが、まあそれは現場レベルに還元できる話ではないだろう。

さておき、elekingのレビューで松島さんは「ポスト・クラウド・ラップ」とぼかしめにいってるけど、たしかにtmjclub「◯◯のジャンルだ」と同定されることから逃げんとするクルーであるだろう。基本的にはシカゴドリル由来のカリカリいうスネアを乱打しながら(そういやxavもNephewもChief Keefリスペクトだ)各種ネタを散りばめて進行するのだが、ビートパターンもアルバム内で変幻自在に形を変え、なんならアンビエントの曲もある(「health」)。全体としてサンプルやビートの音響処理にローファイな志向がありつつ、aeoxveを筆頭に雲クラウド!)が流れるようなフロウがある。歌詞も公開していないようだし、プロジェクト全般の見せ方として、あらゆる意味で他人のタイムラインに乗るまいという意思があるSNSのユーザーネーム「@tmjclubarchive」の流儀には一言添えておきたい。アングラシーンの人気ラッパーには「archive」アカウントがつきもので、ラッパー本人が削除した楽曲を勝手にサブスクに流す不届き者らがごく常識的に存在する。有名なのはSummrsで、彼においては正式なアカウントより「archive」の方がフォロワーが増えたという笑えないけど笑っちゃう話もあったりするのだが、そうした状況をネタにしたユーザーネームなのだろうと思われる)

こうした逃避的な態度はjerkビートの成立にもおおいに関わっていると思う。クラウド・ラップの立役者であるLil Bが執念深く動画投稿を繰り返し世間に存在を認めさせた過去もあるが、その時代がいかにインターネット空間の未開発だったことか、などということを思ったりもする(せっかくなので付け加えておくとNephewは明確なLil Bフォロワーなのでヤバいくらい曲を投稿している)

www.youtube.com

remilia bandxz「wsup den?」

www.youtube.com

さらにオタクでかつ変化球だが、東方シリーズのレミリアの格好をしたヴァーチャルpluggラッパー。片手にリーンを持っているし、女の子の声でそれを歌っている。彼女らのクルー〈9ENSOKYO〉にはチルノ霊夢魔理沙もいる(もちろんクルー名は幻想郷ということだ)。ひとりがボイチェンで複数人を演じているのか、実際に複数人でこれをやっているのか謎。でもやっぱメインカラーが紫のレミリアが重用されている模様。あずまんが大王のキャラ・春日歩のVラッパーもいて、下の動画で二人はコラボしている春日歩のインスタはミームアカウントとなっているっぽい。なおミームアカウントの存在もシーンを理解するのに重要で、最大手はHyperpop Dailyであろう。Hyperpop Dailyがhyperpopについて情報発信をすることはないが、rage/plugg/jerkあたりについてのゴシップはこうしたアカウントを起点に流通しているらしい)。あと、ゲーム・アニメキャラをサグめなラップで踊らせるというのは、古くはAMV、最近だったらフォートナイトのスキンとあったわけだが、内側に入ってラップしてるパターンははじめて見た気がする。

www.youtube.com

Nettspend 「nothing like uuu」

soundcloud.com

open.spotify.com

Nothing Like Uuu

Nothing Like Uuu

  • Nettspend
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

music.apple.com

2007年生まれ、ニコニコ動画より年下のNettspendは、バージニア州にて高1でドロップアウトしてからオンラインコレクティブ〈Novagang〉(かつてはkuruやmidwxst、d0llywood1なども所属しdigicoreシーンの主要拠点のひとつとなった)に所属し活動していたが、2023年にクソガキ感あふれるsnippetでバズり、今年1月にはxaviersobasedとevilgianeとのコラボ曲をリリース、3月にはRolling Loudに出演するなどすごい勢いを見せているラッパーだ。

jerkというシーンにおいては超新星といった具合で、そもそもjerkというのも新興ジャンルであるわけだが、不親切極まりないことにここで紹介したい「nothing like uuu」は別にjerkではない(jerkについて一概にいいづらいがビートの力点がこんな感じのものをいうのだと思う。同ジャンルのオリジネイターたるxavが今年出したアルバムを聞くとよい。Nettのこの曲は明らかに売れ線というか、ポップに勝負にいってる感がある。彼はフロウがめっちゃよくて、たとえば最初の〈I been tryna get geeked all night (Geeked up)〉という箇所からしてなんだか不快な引っかき音みたいな「ギーギー」がやたらに耳に残る感じなど面白く、ポップ路線に移行しつつも残った味わいが絶妙だなと。

やっぱり本人があまりに若かったり白人だったりというのもあって、ニューヨークやインターネットでは「Nettは"ホンモノ"なのか?」という疑義も生じてるっぽいが(疑いの余地なくxavはホンモノだろう、しかしNettは?という雰囲気)、どうなんでしょう。

あと今日deftonesのリフをネタにした曲が出ていた。

※7/9追記: どっちの曲もYouTubeのMVがあり、この記事には動画を貼っていたんだけど起きたらどっちのMVも削除されていてウケた。原因は不明だが、ファンコミュニティなど見ると、MV出演者とのトラブル説が濃厚っぽい。

※7/12追記: どっちの曲もSpotifyから削除されてて草。やっぱクリアランスの問題なのか?

open.spotify.com

That One Song

That One Song

  • Nettspend
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

music.apple.com

 

原口沙輔 「イガク」

www.youtube.com

今年1月に筆者が主催したイベントにも出演してもらった原口沙輔だったが、あの日のライブはヤバくて、お手製のグロ音アセットを矢継ぎ早に繰り出しつつダンサブルな異様な空間を作り出していたのを覚えている。それで本人に「よかったす!!」と興奮気味に言ったが「なによりです」みたいなクールな感じで、xavじゃないけど、なんだか超然としている雰囲気があるな(だし、ほぼ同年代)

「ポップスをやりきる場としてボカロ曲を作っているところがあります」とインタビューに答えていた原口沙輔のボカロ曲のなかでも「イガク」は一際いいと思う。なにがいいというのはムズいが、氏が前名義の頃から熱を注いでいた80'sテクノポップのバイブスがうまくハマってるのかなとか、飛び道具的なサウンド以外はわりとテクスチャが統一されていてこの道の洗練を感じたりとか、あと、ハイパーリアル的に厭世的なリリックも非常によかったりする。

彼が主催するDiscordサーバー「CDs」も独特の動きをしていて面白い。設定により双方向的なチャットができなくてただ単に画像やURLやテキストを送りつけられるだけの理不尽なサーバーだが、最近は「沙悟浄のお皿がどうこう」みたいなテキストが投稿されていてよくわからなかった。要チェック。

篠澤広,長谷川白紙「光景」

www.youtube.com

学マス繋がりということで、長谷川白紙プロデュースの「光景」。ゲーム内の設定を説明しておくと、天才少女である篠澤広は最も不得意な仕事としてアイドルを選択し、ダンス練習といいながらまずは単に直立することから始めてみる、といったような内容になっている。こうしたキャラ設定が歌詞にいきていて、彼女の選択という行為が長谷川白紙流の語彙で綴られている。

さまざまな可能世界を見たうえで元来の世界線に選択的に再帰してくる、というマルチバース版"行きて帰りし物語"は、それが映画であれば格好良く現状への復帰を決断するシーンがあるわけだが(当たり前だが、現状に帰ってこなければ観客はさめるわけである)、「光景」のいいなーと思ったのは、なんだかナイーブな感じもする選択主体が描かれているところ(もちろん篠澤広にとっての「現状」はアイドルというより天才科学者であるが、観客にとってはアイドルが「現状」であり、さらにいえば、コインランドリー経営者が唐突にカンフーの達人になるのと同じくらいのアクロバティックさで、篠澤広は現状のアイドル見習いから前職の天才科学者に遡行しうる

〈選びとった熱が ずっと残っていて 目のおくが 愛おしく呼ばれる〉、〈またいつか 涙のような熱になるわたしの景色は〉あたりの歌詞は、魂の重さは◯◯グラムじゃないけど選択という行為が物理的な実体を持っていて、ふとした瞬間に涙のようになって溢れ出てくるというセンチメンタリズムがある。こりゃリリシストすぎてやべえ!となってゲームをインストールしたが、ゲーム内でこの曲を聞いたことはなく、結局コモン篠澤広に「初」を歌ってもらって終えてしまった(ガチャ!!!!!!!!!)

長谷川白紙といえば狂ボタニカな「Boy's Texture」もすごくよかった。アルバム『魔法学校』のリリースも、あれ、今月じゃん!(「魔法」つながりでA.G.Cook『Britpop』も紹介したくなったが、とりとめなくなってくるのでやめ。松島さんのレビュー読んで)

www.youtube.com

yuruyuru runtime「Magical (ナースロボタイプT)」

www.youtube.com

魔法学校みたいな世界観の曲。それこそ物理法則のちょっと違う隣の世界の中学生が悔恨まじりで綴った日記みたいな、親密っぽさと意味不明さがあるが、聴衆を突き放す感じでもない塩梅がいい。金属の空箱か何かがぶつかりまくってるみたいなドロップがかっこいい。

yuruyuru runtimeが一体何者なのかよくわからないが、いろいろ動画作っていて大体シュールなんだけど味わいがあってよい。

www.youtube.com

www.youtube.com

あかちゃん・シティ・ポップ「セントレイremix」

www.youtube.com

あかちゃん・シティ・ポップによるサカナクションのカバー。これはinternethood2でオープニングDJをしてくれたaosushiが初っ端で流していた曲で、実は去年公開だけど今年知ったのでハイパーボウルのルールに抵触しません。ボカロPのどなたかのサブ垢なんだろうか。それにしても選曲の納得感がすごい。〈午前0時の狭間で夜間飛行疲れの僕は宇宙〉。

asukagender『asukacore』

soundcloud.com

ものすごく古典的なdariacore。偽アカウントしぐさも使用ネタも展開も非常にオーセンティックなんだがやたらクオリティが高く、おそらく一連のdariacoreムーブメントを知らないAOTY民に衝撃を走らせているというので知った。ここ最近はこういうの全く聞いてなかったけど、たまに聞くとめちゃくちゃいい。あと、これ系が普通にサブスクに上がっているのはもはや驚かない。

carbine『inf』

open.spotify.com

Inf

Inf

  • carbine
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1528

music.apple.com

dariacore最盛期にリリースされたチャリティ・コンピアルバム『daria vs. core: it's giving charity!』にも参加していたプロデューサーで、leroyの引退宣言以降オリジナル作品に取り組むSSWとなったcarbine。やっぱりdariacoreムーブメントはどこまでいってもギリアウトで、ゆえにみんな覆面としてキャラを被っていたわけだが、carbineは「おかしなガムボール」のアニメ絵だけを剥いでそのままの名義で活動を続けている。そのあたりも面白くて筆者はかねてより注目していたが、シングル「carnosyn」なんかは2023年によく聞いた曲上位だったと思う。dariacoreのどんな再生環境でもぶっちぎるようなクリッピング気味のキメとか、クサめなメロでも勢いとうるささで乗り切っちゃう感じとか、そういうのがよかったのだ。そんなcarbineの初アルバム『inf』にはkuruやtwikipediaといったdigicoreシーンの古株も参加(twikipediaとの「answer」めちゃくちゃいい)。brakenceの影響が強そうな雰囲気(実際、brakenceの影響力はヤバい)がありつつも、ゲーム音楽チックな音のあざとい差し込み方などがdariacore的というかキッズ的でめっちゃいい。そういう点においても、「doomsday」や「end theory」といった曲名にあらわれる題材においても、国内でいえばlilbesh ramkoなどと非常にちかいと思う。でも日本であんまり聞かれてなさそう、ラムコファンはぜひ聞くとよい。

Syzy『The weight of the world』

open.spotify.com

The weight of the world

The weight of the world

  • Syzy
  • ダンス
  • ¥1681

music.apple.com

件のコンピに参加していたSyzyもまた、carbineと同じようにdariacoreムーブメントから巣立ったベースミュージック・プロデューサー。上に比べるとこちらのアルバムの方がleroy的な意匠を多く取り入れているが、ベッドルーム的ダンス音楽の手法を押し広げて巨大なスケールにまで持ってっちゃってるのには感動する。タイトルもSF的だが7分超のアンビエント曲なども入っていて、なかなか壮大でEvian Christ感もある。あと「DOPE1」で往年のスクリレックスをパロったようなゴリゴリのブロステをやっていたりするのにも落涙。「Take my energy!」の転調には"J"的なるものというかぶっちゃけ音ゲー的なるものを感じてテンションが上がってしまう。ベッドルームの裂け目から宇宙に連れてってくれる、キッズによるキッズのためのダンスアルバムだ(いきなりキャッチコピーじみたことをいう)

death's dynamic shroud & galen tipton『You Like Music』

open.spotify.com

You Like Music

You Like Music

  • death's dynamic shroud & Galen Tipton
  • エレクトロニック
  • ¥1222

music.apple.com

ddsとgalen tiptonのコラボアルバムということで超期待して聞いたら、ddsの異形歌謡曲でもなくgalen tiptonのASMRワールドでもなく、思ってた100倍バンガーでえげつなかった。ddsもgalen tiptonも既存世界のあらゆる音楽・非音楽からサンプリングして独自の世界を生成するトリオ/アーティストなので、タイトルの『You Like Music』というのも皮肉なもので、一方でシングルカット曲「Generate Utopia」の題もド直球でいさぎよい。無限にチョップされた叫びが連なる「Generate Utopia」や「Drifting on Bethel」などを聞いてしまうと、このアルバムで鳴ってる音のすべてが人の声なんじゃないかとか思い始め、だんだんホラー体験と化してくる。そんな強迫観念はさておき、今年一回くらいはクラブでこれを聞きたい。でっけえ音響が映えそうなアルバムである。

 

=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ

長くなったし一旦こんなところにしておきましょう。ハイパーボウル2024上半期、閉幕!